コンパクトで手頃なハイエンドモデルとしてZenfoneシリーズが良く知られるASUSが、スマートフォン市場から事実上撤退する動きを見せています。手頃なSIMフリースマホとして親しまれたZenfoneや、ゲームに特化したROG Phoneの今後が注目されています。
ただし、新機種の開発停止と、既存ユーザーへのサポート終了は別の話です。また、将来にわたってスマホを一切開発しないと確定したわけでもありません。
この記事ではASUSのスマホ事業撤退報道の経緯と理由、ASUSのスマホが歩んできた歴史を振り返ります。
ASUSのスマホは事実上の撤退へ
会長が新機種を追加しない方針を表明
転機となったのは、2026年1月16日のASUSのイベントです。台湾メディアの報道によると、会長のジョニー・シー氏は、スマートフォンの新機種を今後追加しない方針を明らかにしました。
これに先立ち、同社は2026年に新型スマホを投入する計画がないことを認めていました。会長の発言によって、単なる発売時期の変更ではなく、研究開発の資源配分を見直す経営判断であることが鮮明になった形です。一方、既存ユーザーへの対応は継続すると説明しています。
台湾ではZenfoneの在庫が尽きたとの報道も
2026年10月26日には、台湾のスマホ専門メディア「SOGI手機王」が、Zenfone 12 Ultraの販売店在庫が尽き、販売終了の段階に入ったと報じました。同媒体によると、最後まで価格掲載が残っていた256GBモデルも、前の週には販売店の掲載がなくなったといいます。
これは台湾の販売状況についての報道であり、日本を含む世界中の在庫がなくなったことを示すものではありません。それでも、新機種が登場しないまま既存製品が市場から減っていく状況は、事実上の撤退という見方を裏づけています。
撤退が確定したわけではない
一方、2026年6月に公開されたASCIIのインタビューでは、ASUS幹部のPeter Chan氏が、今後1〜2年間はスマホの新製品について明確な計画がないと説明しました。
同時に、AIの動向や市場の需要によっては、将来、新たなモバイルデバイスを開発する可能性にも言及しています。現状は、新機種投入を停止して市場から距離を置いているものの、将来の再参入まで完全に否定した状態ではない、と捉えるのが適切ですね。
なぜASUSはスマホ事業から軸足を移すのか
AI分野へ開発資源を集中させるため
ASUSが説明している中心的な理由は、AI分野への投資です。
シー会長は、スマホに投入していた研究開発資源を、PCやフィジカルAI関連の機器へ振り向ける方針を示しました。具体的には、AIロボットやスマートグラスなどが挙げられています。
同社はAIを搭載したPCだけでなく、AIサーバーやインフラも含めて事業を拡大するとのこと。スマホの開発を続けるよりも、こうした分野へ人材や資金を集めることを優先したといえます。スマホ事業に関しては正直薄利多売となりつつある現実があるので、こういった利益率の高いであろう分野に投資するのは経営判断としては当然のことかもしれません。
独自性を保ちながら事業を続ける難しさ
事業環境の厳しさも、今回の動きを考えるうえで外せません。SOGI手機王は、部品コストの上昇やブランド間の競争を踏まえ、ASUSの短期的なスマホ市場復帰は容易ではないとの見方を示しています。昨今ではAI需要によってメモリの価格も大きく上昇していますので、ASUS以外のメーカーもスマホ市場ではかなり苦戦している印象です。
スマホ事業では、端末を開発して販売した後も、OS更新やセキュリティ対応、修理体制の維持が必要となります。特徴のある製品を作る技術力に加え、継続的に費用を負担できる事業規模も問われます。
こうした構造を考えると、得意なPC分野と成長を見込むAIへ投資を集中する判断には一定の合理性がありますね。
ASUSスマホの歴史を振り返る
Zenfone以前から続く、独創的な端末づくり
ASUSの携帯電話事業は、2003年の自社ブランド端末「ASUS J100」にさかのぼります。これは現在のスマートフォンとは異なる携帯電話ですが、同社のモバイル端末開発の出発点に当たります。
その後の独創性を象徴する製品が「PadFone」です。2012年に展開されたこの製品は、スマホを専用のタブレット型機器に装着することで、大きな画面を使える仕組みでした。スマホとタブレットを組み合わせる発想には、PCメーカーでもあるASUSらしさが表れています。
2014年、ZenfoneがSIMフリースマホの選択肢に
ASUSのスマホを広く知らしめたのが、当サイトでも度々紹介していた2014年に登場したZenfoneシリーズです。同年1月には、画面サイズの異なるZenFone 4・5・6が発表されました。
日本では2014年11月にZenFone 5を発売。16GBモデルの予想実売価格は税別26,800円で、手頃な価格のSIMフリースマホとして注目されました。通信会社の端末販売に縛られず、端末と回線を自分で選びたい人にとって、有力な選択肢になったのです。
現在の高性能モデルの印象とは異なり、初期のZenfoneは、価格と実用性のバランスが魅力でした。

フリップカメラや小型高性能モデルへ進化
その後、Zenfoneは価格だけでなく、機構や使い勝手でも個性を打ち出しました。
2019年のZenFone 6は、背面カメラが回転して自撮りにも使えるフリップカメラを採用。同じカメラを前後で使い分ける構造により、画面側にカメラ用の切り欠きを設けずに済む点も特徴でした。
また、2023年のZenfone 10は、5.9インチの画面と高性能なチップを組み合わせた小型モデルとして登場しました。大画面化が進むスマホの中で、片手で扱いやすいサイズを重視した製品です。Zenfoneは時代ごとに、異なる方法で存在感を示してきました。
2018年、ROG Phoneでゲーム向け市場へ
もう一つの柱が、2018年6月に発表された初代ROG Phoneです。ASUSのゲーミングブランド「ROG」を冠し、ゲームを快適に遊ぶための性能や冷却機構を重視しました。
国内向けの初代モデルは、90Hz駆動の有機ELディスプレイや外付け冷却ユニットに対応。専用アクセサリーも展開し、スマホをゲーム機として使い込む楽しさを提案しました。
手頃な日常用端末から、個性的なカメラ、小型高性能モデル、ゲーム特化型まで。ASUSの歴史は、幅広いユーザーの要望に応えようとする試みの連続でもありました。
既存ユーザーへの影響は?
新機種の投入停止によって気になるのが、ASUSユーザーが今の端末を使い続けられるかという点です。
前述の2026年6月のインタビューでは、Peter Chan氏が、既存ユーザー向けのソフトウェア・ハードウェアのサポートを2030年まで継続すると説明しています。ただし、この説明だけで全機種が2030年まで同じ回数のOS更新を受けられるとは限りません。具体的な更新期間や修理条件は、機種ごとの案内を確認する必要があります。
ASUSのスマホは、新機種を継続的に発売する段階から、既存ユーザーを支える段階へ移りつつあります。完全な撤退と断定することはできませんが、ZenfoneやROG Phoneが築いた製品展開が、大きな区切りを迎えたことは確かですね。
SIMフリースマホの普及期から独自の選択肢を提供してきたメーカーだけに、今回の方針転換は、スマホ市場の多様性という点でも惜しまれる動きといえるでしょう。それでは。

